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スタートアップCFOに求められる役割とは?資金調達・M&A・IPO・経営を担う7つの要件
2025.07.28
スタートアップにおけるCFO(Chief Financial Officer/最高財務責任者)は、単なる「財務部門の責任者」ではありません。
資金調達や財務戦略はもちろん、事業計画、資本政策、M&A、IPO、ガバナンス、投資家とのコミュニケーションなどを通じて、CEOとともに企業価値を最大化する経営者の一人としての役割が求められます。
特に近年では、スタートアップの成長戦略や資本イベントも多様化しています。IPOだけではなく、M&Aや資本提携、大型資金調達、海外展開など、企業が取り得る選択肢は広がっています。経済産業省もスタートアップM&Aを成長戦略として活用するためのガイダンスを公表しており、M&Aの重要性は政策面からも高まっています。
そのためCFOにも、「IPOを実現するためのファイナンス」だけではなく、会社にとって最適な成長戦略・資本戦略を描き、それを実行する力がこれまで以上に重要になっています。
一方で、すべてのCFOに同じ能力が求められるわけではありません。シード・アーリー、レイター、IPO前後など、企業の成長フェーズやCEO・経営チームの強みによって、求められるCFO像は大きく異なります。
ここでは、現在のスタートアップCFOに求められる代表的な役割と経験について整理します。
1. 資金調達だけでなく「資本政策」を設計する力
スタートアップCFOの代表的な役割の一つが、資金調達です。
エクイティファイナンス、デットファイナンスなどを組み合わせながら、会社の成長に必要な資金を確保します。しかし、本当に重要なのは「いくら調達できたか」だけではありません。
どのタイミングで調達するのか。どの程度の希薄化を許容するのか。どの投資家を株主として迎えるのか。将来のIPOやM&Aまで考えたときに、どのような資本構成が望ましいのか。
こうした問いを踏まえて、会社の成長戦略と資本政策を一体で設計する力が求められます。
そのためCFOには、財務モデルを作成する能力だけではなく、VC、PEファンド、金融機関、既存株主など、それぞれのステークホルダーの考え方を理解しながら、会社にとって最適なファイナンスを組み立てる力が必要です。
2. 財務数値を「経営の意思決定」に変える力
CFOは過去の数字を正しくまとめるだけではなく、数字を使って未来の経営を考える役割を担います。
売上、利益、キャッシュフロー、顧客獲得コスト、投資効率など、さまざまな経営データを分析し、「どこへ投資すれば会社が最も成長するのか」「どの事業を伸ばし、どこを見直すべきなのか」を経営チームと議論します。
そのため、財務会計だけでなく、管理会計、事業計画、予算管理、KPI設計、投資判断などへの理解も重要です。
優れたCFOは、単に数字を報告するのではなく、数字から経営課題を見つけ、CEOや事業責任者の意思決定を支援します。つまり、Financeの専門家でありながら、Businessを理解する経営者であることが求められます。
3. M&Aを「成長戦略」として実行できる力
今後、スタートアップCFOにとってさらに重要性が高まると考えられるのが、M&Aに関する経験と知見です。
企業の成長手段は、自社事業を伸ばすオーガニックグロースだけではありません。新しい事業領域への参入、人材や技術の獲得、事業ポートフォリオの拡大などを目的に、M&Aを活用することも重要な選択肢です。経済産業省の2026年のスタートアップM&Aガイダンスでも、M&Aを成長戦略として実行するためには、通常の事業とは異なる意思決定や予算管理などの仕組みが必要だと整理されています。
CFOには、M&A戦略の策定、対象企業の探索、企業価値評価(Valuation)、財務・税務デューデリジェンス、資金調達・買収スキームの検討、契約・条件交渉、PMI(買収後統合)などについて、経営企画、法務、事業部門、外部アドバイザーと連携しながらプロジェクトを推進する力が求められます。
また、自社が「買う側」だけとは限りません。スタートアップ自身がM&Aや資本提携の対象になる場合には、株主や経営陣とともに企業価値や取引条件を整理し、最適な選択肢を検討する役割もCFOが担うことがあります。
S hireのSpotlightでご紹介したnewmoでは、タクシー事業者のM&A・ロールアップを成長戦略の中核に据えながら、デット・エクイティ双方のファイナンスやPMIを並行して進めています。創業から約2年でM&Aを通じて事業規模を拡大し、ファイナンス機能が大胆な事業転換を可能にする「経営の選択肢」を生み出していることが語られています。
こうした事例からも、これからのCFOには、「資金を調達する力」だけではなく、「ファイナンスやM&Aを使って会社が取り得る戦略の選択肢を増やす力」が求められていることが分かります。

4. IPOと「上場後の成長」を見据えた経営基盤をつくる
IPOを目指すスタートアップでは、CFOが上場準備を牽引するケースも多くあります。
監査法人や主幹事証券会社とのコミュニケーション、決算体制、内部統制、予算管理、ガバナンス、開示体制など、上場企業として必要な経営基盤を整備していきます。ただし、IPOそのものがゴールではありません。
特に現在では、東証グロース市場について2030年3月から「上場5年経過後、時価総額100億円以上」という上場維持基準への見直しが決まっており、上場後も継続的に企業価値を高められる会社であることの重要性が増しています。
だからこそ重要なのは、「上場できる会社」をつくることではなく、「上場後も継続的に成長できる会社」をつくることです。
上場後は、投資家との対話、IR、中期経営計画、資本政策、M&A、事業ポートフォリオ管理など、CFOが担うテーマはさらに広がります。
IPO準備段階から、「上場審査を通過するには何が必要か」だけではなく、「この会社が数年後、どのような企業価値を実現するのか」という視点で経営基盤を設計できることが重要です。
5. 「攻め」と「守り」を両立するガバナンス・リスクマネジメント
CFOには事業成長を後押しする「攻め」の役割と同時に、企業価値を毀損するリスクから会社を守る役割もあります。
キャッシュフロー管理、財務リスク、内部統制、ガバナンス、コンプライアンス、投資判断、不正リスクなど、企業が成長するほど管理すべきテーマも増えていきます。
ただし、スタートアップのCFOに求められるのは、「リスクがあるからやらない」という判断だけではありません。
「どこまでのリスクなら取れるのか」「どのような仕組みを整えれば、適切にリスクをコントロールしながら挑戦できるのか」を考えることが重要です。
事業成長を止めない。しかし、致命的なリスクは取らない。このバランスを経営チームとともに判断できることが、CFOの重要な役割です。
6. 投資家・金融機関・経営陣をつなぐコミュニケーション力
CFOは、社内外の非常に多くのステークホルダーと関わります。
CEOや取締役、事業責任者、バックオフィス(管理部門)だけでなく、VC、PEファンド、金融機関、監査法人、証券会社、機関投資家、弁護士などとのコミュニケーションも必要です。
そのため、専門的なファイナンス知識だけではなく、複雑な内容を相手に合わせて分かりやすく伝える力が求められます。
投資家には企業の成長ストーリーと投資リターンを説明する。経営陣には財務数字から見える経営課題を伝える。事業責任者には予算や投資判断の背景を分かりやすく説明する。
相手によって言葉を変えながら、同じ経営戦略へ組織を動かしていく。このコミュニケーション力は、CFOとして成果を出すうえで非常に重要です。
7. AI・データを前提に、経営管理そのものを進化させる
近年では、CFOにもAIやテクノロジーへの理解が求められるようになっています。
これは、CFO自身がエンジニアになるという意味ではありません。重要なのは、会計、経営管理、予算策定、レポーティングなどの業務において、AIや各種システムをどのように活用すれば、経営判断のスピードと精度を高められるかを考えられることです。
例えば、複数のシステムに分散したデータを統合し、経営KPIを迅速に把握できる状態をつくる。定型的なレポーティング業務を自動化し、ファイナンスチームが分析や意思決定支援により多くの時間を使える環境をつくる。
AIを使うこと自体が目的ではなく、AIやデータを活用して「経営の質」を高めることが、これからのCFOにとって重要なテーマになります。
CFOに求められる役割は、企業フェーズによって大きく異なる
ここまで多くの役割を挙げましたが、すべてのスタートアップCFOがこれらを一人で担うわけではありません。
むしろCFO採用において最も重要なのは、「今この会社には、どのタイプのCFOが必要なのか」を明確にすることです。
シード・アーリーフェーズであれば、資金調達や事業計画、管理体制の立ち上げに強いCFOが求められるかもしれません。レイターフェーズでは、大型調達、IPO準備、組織マネジメント、ガバナンス構築などの経験が重要になります。上場後であれば、IR、資本政策、M&A、グループ経営、事業ポートフォリオ管理などが中心テーマになることもあります。
また、CEOが事業やプロダクトに強い場合と、ファイナンスに強い場合でも、CFOに求められる役割は変わります。
そのためCFOの採用では、単純に「最も経歴の華やかな人」を選ぶのではなく、「CEO・経営チームに足りない機能を補完し、会社の次の成長フェーズを実現できる人か」という視点が重要です。
CFOのキャリアパスも一つではない
スタートアップCFOになるためのキャリアパスも多様です。
例えば、投資銀行でM&Aや資金調達を経験した人、PEファンドやVCで投資業務を経験した人、監査法人で会計・IPO支援を経験した公認会計士、事業会社で経営企画・財務・M&Aを経験した人、スタートアップで管理部長やFinance責任者を経験した人、コンサルティングファームで事業戦略や企業価値向上を支援した人など、さまざまなバックグラウンドからCFOを目指すことができます。
それぞれに強みと、今後補うべき経験があります。
例えば、投資銀行出身者はファイナンスやM&Aに強い一方、組織マネジメントや日常的な経営管理について新たに経験を積む必要があるかもしれません。公認会計士は会計・IPO・ガバナンスに強い一方、資金調達や事業戦略について経験を広げることでCFOとしての守備範囲が広がります。
S hireのSpotlightでご紹介した株式会社movの取締役CFO・諸見里卓氏も、公認会計士として監査法人で監査・IPO支援・M&Aアドバイザリーを経験した後、Cygamesで経営企画・財務経理の実務を経験し、その後スタートアップのCFOへとキャリアを広げています。movではシリーズAの資金調達と並行して、経営企画、財務経理、法務知財、HRなどの基盤づくりまで幅広く担ってきました。
諸見里氏が語るように、会計士としての専門性だけに安住するのではなく、現場の実務に入り込み、専門領域外についても学び続けることは、CFOへキャリアを広げるうえで重要な一つの考え方です。
つまり、CFOを目指すうえで重要なのは、特定の「王道キャリア」をなぞることではありません。
自分が持っている専門性を軸にしながら、経営者として足りない経験を意図的に獲得していくことが重要です。

CFO採用で最終的に重要になる「CEOとの補完関係」
CFOは、CEOと非常に近い距離で経営を担います。そのため、専門性や実績だけでなく、CEOとの相性や役割分担も重要です。
CEOが大胆にリスクを取るタイプであれば、CFOには冷静にリスクを分析しながら経営判断を支える役割が求められるかもしれません。一方で、CEOが慎重なタイプであれば、CFO側がファイナンスやM&Aを活用しながら積極的に成長戦略を提案することもあります。
また、CEO自身がファイナンスに強い場合には、CFOには別の強みが求められる可能性があります。
newmoのCFO・武藤氏は、CEOの青柳氏が自身もCFO経験を持つ経営者であり、そのうえでファイナンスチームが事業の選択肢を広げる役割を担っていることについて語っています。重要なのは、CEOとCFOが同じタイプであることではありません。
お互いの強みと弱みを補完しながら、企業価値向上という共通の目的に向かえるか。この関係性が、スタートアップCFOとしての活躍を左右する大きなポイントになります。
これからのCFOは「経営の選択肢を増やす人」
これまでCFOというと、「資金調達ができる」「IPOを実現できる」「管理部門を整備できる」といった能力が重視されてきました。もちろん、これらは今後も重要です。
一方で、今後さらに重要になるのは、ファイナンスを使って経営の選択肢そのものを増やせることではないでしょうか。
エクイティで調達するのか、デットを活用するのか。自社で事業を育てるのか、M&Aによって時間を買うのか。IPOを目指すのか、M&Aや資本提携を選択するのか。余剰資金をどの事業へ配分するのか。どの事業から撤退するのか。
CFOがこうした選択肢を経営チームへ提示できれば、CEOはより多くの選択肢のなかから経営判断を行うことができます。
newmoのインタビューで語られている、「ファイナンスは手段ではなく、事業そのものの選択肢を生み出す機能」という考え方は、これからのスタートアップCFOの役割を考えるうえでも非常に示唆的です。
CFOは、経営が決めた戦略に必要な資金を用意するだけの存在ではありません。
資本・数字・M&A・市場との対話を通じて、「この会社にはこんな成長の仕方もある」と経営の可能性そのものを広げる。そこまで担えることが、これからのCFOに求められる大きな価値の一つだと考えています。
まとめ
スタートアップCFOは、単なる財務部門の責任者ではありません。
資金調達、資本政策、事業計画、M&A、IPO、ガバナンス、IR、AI・データ活用などを通じて、CEOとともに企業価値をつくる経営者です。
特にこれからは、IPOという一つのゴールに向けて会社を整えるだけではなく、IPO・M&A・資本提携・大型調達など複数の選択肢を持ちながら、企業にとって最適な成長戦略と資本戦略を設計できるCFOの価値がさらに高まっていくと考えられます。日本でもスタートアップM&Aの活用促進が進められ、東証グロース市場でも上場後の継続的な企業価値向上がこれまで以上に求められる方向にあります。
一方で、一人のCFOがすべての能力を完璧に持つ必要はありません。
重要なのは、企業の成長フェーズ、事業特性、経営チームの強み・弱みを理解したうえで、「自分の専門性を使って、この会社のどの経営課題を解決できるのか」を明確にすることです。
CFOを目指す方にとっても、「CFOになること」をゴールにするのではなく、資金調達、M&A、IPO、事業管理、組織マネジメントなど、どの経験を積めば経営者としての守備範囲を広げられるのかを考えながらキャリアを構築することが重要です。
そして、これからのCFOに期待されるのは、経営から与えられた課題を解くだけではなく、「ファイナンスを通じて、会社が選べる未来を増やすこと」なのかもしれません。
S hireでは、CFOという肩書だけで求人をご紹介するのではなく、企業の成長フェーズや資本政策、今後想定されるIPO・M&Aなどの経営イベント、CEOがCFOに期待する役割まで整理し、その方の経験が最も活かせるキャリアの選択肢をご提案しています。
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