スタートアップ×コーポレート転職Playbook
スタートアップ×コーポレート転職
Playbook
【S hire イベントレポート】コーポレートのAI活用、組織で成果を最大化するには

kubell 角田氏 × WACUL 田中氏に聞く、現場への定着とチームに広げる実践
「AIツールを導入し、個人の業務効率化は進み始めた。一方で、その活用が一部のメンバーにとどまり、チーム全体の成果には十分につながっていない。」
今回のウェビナーに寄せられた事前質問からは、こうした課題が浮かび上がりました。
個人の工夫を組織の知見として共有し、日々の業務に定着させるためには、何を整える必要があるのでしょうか。
2026年10月16日、S hireは「コーポレートのAI活用、組織で成果を最大化するには」と題したウェビナーを開催しました。約90名の方にお申し込みいただき、当日も具体的な課題に関する質問が寄せられるなど、本テーマへの関心の高さが伺える機会となりました。
登壇いただいたのは、株式会社kubellパートナー 執行役員CAOの角田剛史氏と、株式会社WACUL 取締役の田中俊輔氏。S hireの加藤健太がモデレーターを務め、組織への浸透、業務の見直し、ガバナンス、効果の捉え方について伺いました。
本記事では、両社が重ねてきた実践と、現在も向き合っている課題を紹介します。


1. 個人の活用を組織に広げる、文化と体制づくり
AIの利用環境を整えても、それだけで組織全体の活用が進むわけではありません。経営としての方針を示すとともに、現場が自分たちの業務に引きつけて必要性を考え、行動できる状態をつくることが求められます。
kubell:対話を通じて、現場が自ら取り組む理由をつくる
kubellグループの全社AI推進プロジェクト「kube-AI」でPMOを担う角田氏は、AI推進を組織文化の形成として捉えることを重視しています。
同社では、CEOをプロジェクトオーナーに据え、各部門のキーパーソンや情報システム・セキュリティ、開発職のメンバーが参画する横断体制を構築。推進チームは、各部門の業務改善を個別に引き受けるよりも、現場が自ら改善を進められる環境や共通の仕組みづくりに注力しました。
部門間の温度差を埋めるために取り組んだのが、対話型のワークショップです。普段から一緒に働くチーム単位で、AIを活用する意義や自分たちの課題を話し合い、次に取り組むことを決めてもらう。使い方を教える前に、活用する理由を自分たちの言葉にする機会を設けました。
さらに、活用状況を測る社内指標を設け、知識や実践力の伸びが鈍化した段階では、コーポレート領域のメンバーを対象としたハッカソンも実施。同じ領域で働く同僚の使い方を知ることが、自分の業務で試すきっかけになったといいます。
WACUL:個人の工夫を、組織への貢献として捉える
田中氏が指摘したのは、個人がAIを使いこなしていても、その工夫が組織に還元されていないという課題です。
特定の人だけが使える状態では、担当者が変わった際に取り組みが継続しにくくなります。個人の業務時間が短くなった後、その余力を何に振り向けるかも、組織として考える必要があります。
WACULでは、AIに任せる業務と人が担う業務の方向性を示しながら、現場での改善を進めています。例えば、労務担当者がClaudeやGoogle Apps Scriptを活用して給与計算のチェックを支援するアプリを作成するなど、非エンジニアによる取り組みが生まれています。
こうした実践を全社に紹介し、取り組んだ人にも光を当てる。さらに、業務改善や担当領域を広げる姿勢を評価につなげることで、AI活用を組織の中に広げています。
2. 安心して活用できる範囲を、ルールと仕組みで支える
個人情報や取引先情報などを扱うコーポレート部門では、AI活用と情報管理を一体で考える必要があります。両氏からは、活用を進めるための環境整備と、許容できないリスクを見極める重要性が語られました。
WACUL:活用を進めながら、連携に伴うリスクを見極める
田中氏は、当時約100名規模のWACULにおいて、AIの浸透と適切な使い方の検証を進めていると説明しました。厳格な制限を重ねることで活用そのものが難しくなる懸念もあり、実務とのバランスに悩む場面もあるといいます。
一方で、外部サービスとの連携については、得られる利便性と情報漏洩などのリスクを慎重に比較しています。個人での活用事例を、そのまま企業の業務環境に持ち込めるとは限りません。顧客情報を預かる企業として、利用の範囲を判断する必要があります。
kubell:情報システムや開発職も、推進の当事者になる
kubellでは、AIツールを一括管理し、入力データの学習利用を無効にする設定や、利用上の逸脱を防ぐ仕組みを整えています。
また、非エンジニアでもアプリを作れるようになることで、意図しない外部公開というリスクも生じます。そこで、Google Apps Scriptなどを活用し、社内認証を通じて利用するアプリを公開できる仕組みを整備しました。
角田氏が重視するのは、情報システムやセキュリティ、開発職のメンバーと、推進チームが一緒に考える体制です。活用の広がりに応じて必要な対策を加え、安心して使える範囲を具体的にしていく。その積み重ねが、スピードとガバナンスの両立を支えています。
3. AIで効率化する前に、業務そのものの必要性を問い直す
AI活用を始める際、どの業務を自動化するかに目が向きがちです。ここで両氏が共通して挙げたのが、その業務を続ける必要があるかを問い直すことでした。
kubellでは、AI推進プロジェクトを始める前に、不要な業務やルールを全社から募り、廃止を検討する取り組み「すてるば」を実施。初回には約300件の提案が集まり、部門での確認を経て、役員が廃止の可否を判断しました。
長く続いている業務や、過去に経営陣が求めたルールは、現場の判断だけではやめにくいものです。提案を集める場と、経営が判断するプロセスを設けることで、業務を見直しやすくしています。同社では、事業計画を策定する前の定例の取り組みとして位置づけています。
WACULでも、AIで改善する前に、その業務の必要性を田中氏から問いかけています。そのうえで、身近なメンバーを旗振り役にし、実践や成果を社内で共有しながら、小さな取り組みを始めています。
不要な業務を減らし、残す業務の進め方を見直す。この順序は、AI活用を考えるうえでも重要な視点です。
4. 利用状況と、事業全体の生産性をどう捉えるか
AI活用が広がると、ツールの利用料や上位プランの費用も増えていきます。その投資をどう評価するかは、両社にとっても重要な論点です。
kubellでは、利用状況をダッシュボードで確認し、利用の少ないアカウントのプラン変更や返却を求めるなど、費用管理を行っています。同時に、角田氏は、AI費用と事業全体の生産性を合わせて見る必要性を指摘しました。
具体的には、人件費、業務委託費、AIを含むシステム費用を投入資源として捉え、売上との関係を事業PLごとに確認しています。個別業務の工数削減が、組織全体の成果にどうつながっているかを見ていく考え方です。
一方、田中氏からは、コーポレート部門の改善を売上や生産性に結びつけて測る難しさも語られました。WACULでは、費用の確認や導入時の申請、管理職との利用状況の確認を行いつつ、効果をどう評価するかについては試行錯誤を続けています。
人事評価への反映にも段階があります。kubellでは、まず個人や組織の目標にAI活用を組み込み、等級や給与に関わる能力評価への反映は次の課題として検討。WACULでは、会社が期待する行動や、担当領域を広げる姿勢と関連づけて評価しています。
両社の話から見えてきたのは、活用を促す仕組みと、その成果を確かめる仕組みを、段階的に整えていく姿勢でした。
編集後記|AIを通じて、コーポレートの役割を広げる
今回の対話で印象的だったのは、AIによって生まれる余力を、コーポレートとしての価値につなげようとする両氏の視点です。
田中氏は、営業や開発の現場に出て、一次情報を集める「フィールドワーク」を重視しています。現場で何が起きているのか。その先にいる顧客は何を求めているのか。そうした情報を得ることで、自分たちの業務で何を変えるべきかが見えてきます。
角田氏からは、業務改善や仕組みづくりの経験を持つコーポレート人材には、AIを活用して成果を生み出す可能性があるという話がありました。同時に、従来の職種の枠にとどまらず、自らの役割を広げていく重要性も語られました。
専門性を土台に現場を知り、課題を捉え、AIを活用して解決できる範囲を広げていく。その経験の積み重ねは、組織への貢献と、一人ひとりのキャリアの可能性につながるのではないでしょうか。
S hireは、スタートアップのコーポレートを担う方々の経験や試行錯誤をつなぐ場として、今後も実践知を共有する機会をつくってまいります。

Back to Index
