
LayerX流、コーポレート人材のPdM挑戦記—経理・CFO出身者が語る「事業を動かす」専門性
簗 隼人(LayerX/バクラク事業部 プロダクト企画本部 統括部長)
根本 潤(LayerX/バクラク事業部 プロダクト企画本部 マネージャー)
「経理職として感じていたのは、事業成長に貢献している手触り感が得づらいという思いでした」
「最初はプロダクト開発の専門用語も分からず、働く上でのリズムの違いにすら戸惑う毎日でした」
現在、バックオフィス向けAIエージェントサービス「バクラク」のプロダクトマネージャー(以下、PdM)として活躍をされている、簗(ヤナ)さんと根本さん。
監査法人の公認会計士、スタートアップのCFO。あるいは、大手メーカー・スタートアップの経理、IPO推進。いわゆる「コーポレート職」として過去の経歴を持つお二人が、今はエンジニアたちと肩を並べ、PdMとして働いています。
「バックオフィスの専門性がプロダクトづくりに活きる瞬間」はいつ訪れるのか。
そして、AI時代においてバックオフィス業務の経験をどう価値に変えているのか。自らのドメイン知識を「プロダクトをつくる力」へと昇華させていった泥臭いリアルを伺いました。
「守り」の限界と「攻め」への渇望。キャリアチェンジの背景
—本日はよろしくお願いします。LayerXでは「バクラク」シリーズというバックオフィス向けAIエージェントサービスを展開する中で、お二人のようにコーポレート領域のバックグラウンドを持つ方がPdMへ挑戦するケースが増えていると伺っています。まず、これまでのキャリアと現在の役割を教えてください。
LayerX 簗(以下、簗): LayerXに入社しておよそ4年になります。主に新規プロダクトのPdMを担当しつつ、PdMのマネジメントも担当しています。
キャリアの起点は監査法人です。その後、事業会社で経営企画とIR(投資家向け広報)を経験し、LayerX入社前は別のスタートアップでCFOを務めていました。キャリアの大半をコーポレートの中枢で過ごしてきました。
LayerXには、もともとPdMとして入社したわけではありません。「ドメインエキスパート」という肩書きで参画し、当初はマーケティング業務などプロダクト開発の周辺領域から関わりました。そこから徐々に役割をシフトし、現在の立ち位置に落ち着いています。
LayerX 根本(以下、根本): 私は LayerXに入社して2年ほどです。「バクラク債務管理」のPdMを担当しています。簡単にキャリアを説明すると、新卒でメーカーの経理に入り、経理実務と並行して社内の大規模システムのリプレイスに関わりました。その後スタートアップに転職しました。
私の場合、「PdMのキャリアはどうですか」という打診を受けたのが転機です。ずっと経理畑でキャリアを積んできていたので戸惑いはありましたが、自分の経験が活きる可能性があると考え、PdMとして働く道を選びました。
—お二人とも、バックオフィスの高い専門性を持ち、キャリアも順調に積まれていたと思います。それでもなお、開発未経験でPdMというキャリアへ移った理由は何だったのでしょうか。
簗: コーポレートの仕事にやりがいがなかったわけではありません。ただ、経理やバックオフィス業務の枠組みの中でキャリアを重ねるうち、事業に関するディスカッションの場に出ることがあっても、貢献ができていないというもどかしさがありました。
CFOや経営企画として会社を「守る」役割は必要不可欠です。それでも、事業のコアであるプロダクトに直接触れ、価値を生み出す側に回りたい思いが強くなっていったのが実情です。
根本: 根底にある動機は簗と近いです。経理としての仕事に誇りはありましたが、事業成長への貢献の実感が持ちにくいことに葛藤がありました。
PdMへの転身を打診された時、正直「開発経験もないのに務まるのか」という戸惑いがありました。ただ考えてみると、これまでの経理のキャリアで「使いやすいバックオフィスの業務システムとは何か」「現場のどこに課題があるか」という解像度は、人一倍持っている自負がありました。自分が実務担当者として困っていた課題を、今度はつくる側から解決できる。そこに惹かれて決断しました。

「開発経験ゼロ」の壁。役割の再定義とコミュニケーションギャップ
—現実には「開発経験ゼロ」からのスタートです。入社後、最初にぶつかった壁を教えてください。
簗: 私の場合、入社当初は「役割定義の曖昧さ」が最大の壁でした。私が入社した時期は「ドメインエキスパート」という職種自体が社内でも手探りの段階で、明確な役割や業務があるわけではありませんでした。
そこで、営業、CS、開発チームなど社内の各所にヒアリングをして回り、現場で何が滞っているのかを自分で拾い集めました。組織のボトルネックを見つけ、一つずつ解消していく中で、ようやくPdMとしての自分の役割が見えてきました。最初の数ヶ月は正直、手応えのないまま動き続けていた感覚です。
根本: 私は開発組織とのコミュニケーションで壁を感じました。エンジニアが使うプロダクト開発の用語がまず分からない。加えて、コーポレート部門と開発部門では働き方のリズムや思考の順序が違います。
一番苦労したのは、「開発や保守の難しさ」を理解した上での意思決定です。経理時代は「こういう機能があれば便利」と要望を出す側でした。しかしPdMになると、「その機能を作るための開発コストと、将来の保守負債」を天秤にかけて意思決定する立場になります。「この仕様で開発のGOサインを出していいのか」という判断を迫られるたび、自分の経験不足を突きつけられました。
—その環境で、エンジニアチームとの信頼関係をどう築いていったのでしょうか。
簗: 分からないことは知ったかぶりをせず、周囲に教えを乞う。同時に、お客様の業務や課題の深さからやるべきことの優先度を立てることなど自分ができるところからチームでの成果を出すために動く。その両立が必要でした。LayerXのエンジニア組織は協力的で、PdMが自分の責任範囲を明確にし、「なぜこの方向に進むべきか」という指針を示せれば、しっかり応えてくれます。
根本: エンジニアへのリスペクトと謙虚さが前提であることは簗と同じです。その上で私は、「なぜこの機能が必要なのか(Why)」を言語化することに徹しました。エンジニアは技術のプロですが、経理の苦労を直接知っているわけではありません。だからこそ、開発のHow(どう作るか)はエンジニアに委ね、PdMはWhy(なぜ作るか)に責任を持つ。この役割分担が定まってから、協働がうまく回り始めました。

コーポレート経験がプロダクト思考に転換する瞬間
—コーポレート時代の経験が「プロダクトをつくる力」に転換したと感じる瞬間を教えてください。
簗: 経営企画やIR、プロジェクトマネジメントの経験が、プロダクト開発でそのまま武器になっています。
IRは、投資家に対して「自社の本質的な価値は何か」を突き詰め、伝わるメッセージとして設計し、対話する仕事です。これは、プロダクト開発における「顧客が抱えるどの課題を解決すべきか」「その価値をどう伝えるか」を見極める思考プロセスと重なります。プロダクトのコアバリューを定義し、チームに浸透させる場面で、IRの経験が直接活きています。
根本: 私の場合は、システム導入経験とIPO準備の経験が活きています。IPO準備のような全社を巻き込むプロジェクトでは、途中で利害対立や迷いが必ず生じます。そのたびに「そもそも何のためにやるのか」という原点に立ち返る思考を鍛えられました。
現在のPdM業務でも、仕様を詰めるうちに手段が目的化しかける瞬間があります。その時に「本来解決すべき顧客の課題は何だったか」と議論を戻せるのは、当時の経験があるからだと思います。
—会計知識そのものというより、メッセージ設計や目的への立ち返りといった、より抽象度の高いビジネススキルがPdM業務の核になっているわけですね。逆に、バックオフィスの経験がむしろ足枷になった瞬間はありますか。
簗: 自分の経験やその中での業務の当たり前に囚われすぎて、凡庸な意思決定にならないかはいつも気をつけています。そもそも経験はあくまで数社であって、それだけで判断すると偏った意思決定につながる可能性があります。また、業務をそこまで理解していない人からの率直な感想などから新しいアイデアが生まれることもよくあります。業務の課題を解決することは大事ですが、業務の前提を疑う姿勢は大事です。
PdMに求められるのは、高度な会計知識そのものよりも、前提を疑う姿勢や、必要な知識を都度キャッチアップして素直に取り入れる姿勢です。

PdMとしての業務範囲の広さと、意思決定の裁量
—LayerXのPdMとして働く中で、この仕事ならではと感じる面白さを教えてください。
根本: 議論を重ねてリリースした機能が、SNSなどでお客様から評価された時は率直に嬉しいです。「バクラクなら将来的にここまでやってくれるはず」と期待していただけることにも、責任とやりがいの両方を感じます。
何もないアイデアの状態から、エンジニアと共に機能を作り上げていくスピード感は、経理時代には経験できなかったものです。ただ、そのスピード感は同時に「決めたことの結果を早く突きつけられる」ことでもあります。
簗: LayerXのPdMは、業務範囲が広いのが特徴です。機能開発の要件定義にとどまらず、マーケティング施策、営業支援、広報的な動きまで、事業を伸ばすための領域に広く関与します。
裁量が大きい分、判断の責任も自分に返ってきます。手塩にかけたプロダクトへの思い入れは強くなりますが、それは同時にプレッシャーでもあります。不確実性の高い中でチームをまとめ、成果を出すプロジェクト進行やメンバーのマネジメントを通じて、リーダーシップは確実に鍛えられると感じています。
—また、AI時代を迎えるにあたり、PdMの経験を通して今後の経理・財務・法務・労務といったコーポレート領域の仕事はどう変わっていくとお考えですか。
根本: 大きな変化が起きると考えています。これまでのバックオフィスは、伝票やデータなどをいかに正確かつ効率的に処理するかに時間が割かれ、それが評価されてきました。
しかし今後、細かい処理に関する業務はAIやバクラクのようなプロダクトが代替していきます。これからのバックオフィス人材には、処理の効率化を超えて「会社全体の目的を達成するために、今何を行うべきか」という意思決定や戦略的な視点が求められるようになるはずです。
—そうした変化の中で、「業務に詳しい人」から「特定ドメインに精通するPdM」として活躍できる人へ移行するには、何が必要でしょうか。
簗: 業務知識はあくまでスタートラインです。私が考えるPdMに向いている人材の条件は3つあります。
1つ目は、指示を待たずに自ら課題を探しに行く行動力。2つ目は、技術的バックグラウンドがなくてもエンジニアと対等に議論し、仕様を詰め切る論理的思考力。3つ目は、ユーザーが抱える課題の解決に対して妥協しないこだわりがあるかどうかです。
根本: 私も同意です。加えて、「あるべき姿を語れる言語化能力」が不可欠だと感じています。「今の業務プロセスは本当に正しいのか」と、自分が過去に築いてきたプロセスすら疑う姿勢。そして、本質的な課題を解決したいという意志。これらの有無が、実務経験者としてとどまるか、プロダクトを通じて事業を動かすPdMになれるかの分かれ目だと思います。

キャリアチェンジを通して学んだこと
—コーポレートからPdMというキャリアチェンジを検討している方へメッセージをお願いします。
根本: PdMは、興味本位だけで務まる仕事ではありません。壁にぶつかり、失敗する場面も出てきます。変化の激しい環境に適応し、自分の未熟さに対するフィードバックを受け入れる姿勢が求められます。
その上で、自分のドメイン知識を使って多くの企業の課題を解決できることには、経理やコーポレート業務で得がたい経験や手応えがあります。本気で経理やコーポレートの業務を変えたいと思う方と働きたいと思っていますので、是非ともお待ちしております!
簗: 専門性を一度ゼロから組み立て直す覚悟と、評価軸が変わることへの理解は必要です。
一方で、管理部門で日々の業務にあたりながら「もっと本質的に良くできるはずだ」「今の延長線上のキャリアには限界がある」という課題感を持っている方にとって、PdMへの挑戦は意義のある選択肢になり得ると思います。新たな気づきも多い環境ですので、是非チャレンジしていただけると嬉しいです。
—補足として、簗さんのように公認会計士の資格を持っている必要があるかと心配される方もいますが、採用選考において資格の有無は要件ではありません。重視されるのは、現場の課題に対する解像度と、それを解決したいという熱量の大きさです。本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
最後に
LayerXではコーポレート出身のPdMへチャレンジされたい方の募集を積極的に行っていますので、ご興味ある方は問い合わせフォーム等からご連絡ください!
【バクラク】プロダクトマネージャー(未経験可、経理/経営企画経験者)

※この記事内容は全てインタビュー当時のものです。
インタビュー後記:今回のインタビューを通して印象的だったのは、お二人が「専門性がそのまま活きた」という単純な成功体験ではなく、「専門性を一度分解し、別の形に組み立て直した」という手前のプロセスを丁寧に語ってくれたことです。
コーポレート出身者がPdMに転身するというと、ドメイン知識がそのまま強みになるという文脈で語られがちです。しかし実際に話を伺うと、その前段には「過去の肩書きを一旦手放す」「開発というスピード感の違うゲームのルールを学び直す」という、地味で根気のいる工程が横たわっていました。ドメイン知識は武器になり得るが、それは自動的にではなく、本人が謙虚に学び直した先に初めて機能する、ということなのだと思います。
管理部門で「もっと事業に近いところで貢献したい」と感じている方にとって、この記事が「自分にもできそうか」を判断する材料の一つになれば幸いです。
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