不動産テック企業である株式会社 Facilo(ファシロ)のVP of HRである趙(ちょう)さんが、自身のユニークなキャリアパス、特に「川下り型キャリア」と表現する働き方について語ります。リクルート、メルカリ、そして現職のスタートアップであるFaciloへと渡り歩いた趙さんのキャリアは、まさに変化を楽しみ、経験から得た学びを次へと繋げていく道のりでした。キャリアブレイクやDEI(Diversity, Equity, and Inclusion)との出会いを経て、自分自身の「揺るがないテーマ」を見つけた趙さんの言葉は、これから新たな一歩を踏み出そうとしている方のキャリアを考える上で、大きなヒントになるはずです。キャリアブレイクがもたらしたターニングポイント—本日はよろしくお願いいたします!まずは自己紹介をお願いします。Facilo 趙(以下、趙): よろしくお願いいたします。FaciloでVP of HRを務めております、趙と申します。私のキャリアは一言で言うと「川下り型キャリア」です。こう言えば聞こえはいいかもしれませんが、まさに川下りのように流れに身を任せてきた感覚に近いですね。社会に出たのは就職超氷河期と言われる年で、且つ大学も芸術系でしたので、自分でキャリアを選びとるというよりは、ご縁をいただいた場所で目の前の仕事にがむしゃらに向き合うという20代でした。キャリアの前半は報道記者や営業、その後事業企画に携わり、この10年間はHR分野に注力してきました。企業で言いますと、当時は3万人規模のリクルートから、2,000人規模だったメルカリへ。そして現在は50人規模のスタートアップへと移ってきました。それぞれのフェーズで異なる経験を積む中で、常に戸惑いながらも変化を楽しみ、新しい挑戦を続けてきました。—メルカリに入社される前に、約2年間のキャリアブレイクを取られたと伺いました。どのようなお考えでその期間を過ごされたのでしょうか?趙:2人目の子供の出産を機に育児に専念しながら、40代以降のキャリアをどう進めるかを、どこにも所属しない素の自分に戻ってじっくり考えるための時間でした。出産後の1年間は、育児に没頭できる貴重な時間でした。1人目が赤ちゃんの時はとにかく余裕がなく記憶にないぐらい慌しかったので、その時間を取り返すかのごとく一瞬で過ぎ去っていったという感覚です。このキャリアブレイクが、私の仕事への向き合い方を大きく変えるターニングポイントとなりました。次に本当に打ち込みたいテーマを見つけるまでは転職活動を始めないと決め、偶然見た映画から「循環型社会」というテーマに心が向いていることに気づき、それがメルカリ入社のきっかけとなりました。当時、私の中でメルカリはフリマアプリという認識でしたが、人材エージェントの方の紹介で循環型社会とのリンクを知り、社員の方々とのカジュアル面談を通じてその可能性に強く惹かれました。現職のFaciloも不動産流通を支援するという点で循環型社会というテーマに繋がっており、キャリアにおける一つの軸となっています。「自分にはない感覚」を受け入れた先に見えたもの—メルカリではInclusion and Diversityの仕事に没頭されたとのことですが、その経験についてお聞かせいただけますか?趙:メルカリではInclusion and Diversityの仕事に没頭しました。これは企業活動に留まらない社会的なテーマであり、私にとって今後も追求していきたい大きなテーマとなりました。しかし、着任前後は悩みと葛藤の連続でした。D&Iチームの前任マネージャーが退職されることになり、当時、上長からマネージャーを打診されたのですが、1週間ほど真剣に悩みました。それまでの私は、女性だけが研修に集められることに疑問を感じるなど、D&Iの施策に少し冷めた気持ちすら持っているタイプでしたので、自分がリードする立場に立つことは想像もつきませんでした。当初は自信がなく断る理由を探していましたが、信頼する先輩たちから「会社のピンチは自分のチャンスだ」と強く勧められ、引き受けることにしました。結果的に、この選択は私にとって大きな転機となりました。自分にはない感覚を受け入れてみたことで、新たな道が開けたと感じています。困難な状況の中でも、社外からの評価や経営陣の強い推進力によって社内の空気が大きく変わり、自身の活動が「意味あること」として認識されるようになりました。この経験を通じて、テーマ推進の障壁を乗り越えることで継続性が生まれることを学び、自身のテーマへの使命感に近いものが生まれていきました。DEIのテーマは私の中で揺るがないものとなり、子供たちの世代が大人になる30年後の社会をより良くすることに繋がるという思いがあります。また、異文化感受性発達モデル(DMIS理論)※1 や異文化意識開発®プロファイル(DPIC)※2 といった学術的な知見を学び続け、それが自身のライフワークとしてのテーマ探求に繋がっています。※1 異文化感受性発達モデル(DMIS理論)・・・人が差異を知覚する構造が,単純なものから複雑で柔軟なものへと6段階で発達する過程を表現したモデル※2 異文化意識開発®プロファイル(DPIC)・・・DMISを日本の文脈に合わせて精緻化し,異文化感受性を具体的かつ実践的に評価・活用するツールとして開発されたモデルスタートアップへの挑戦:組織が変わる瞬間を、愛おしく見届けながら— メルカリからFaciloへの転職を決めた理由は何だったのでしょうか?また入社一年を振り返っていかがでしょうか?趙: DEI活動の成果に手応えを感じつつも、その成果が遠くにあると感じたため、HRとして経営戦略と人事戦略の接続を身体で理解したいと考えました。アーリーステージのスタートアップであればHRの役割をクリアに体感し、自身の貢献を明確に感じられると考え、現在のFaciloに飛び込みました。スタートアップならどこでも良かったわけではありません。HRのアジェンダは、専門性を持ったHRがいなくても、経営の意思決定で方向性を決めることができてしまうアジェンダだと感じていました。だからこそ、どんな経営リーダーと仕事をするかが重要でした。FaciloのCxO陣が、組織のアジェンダを事業成長の前提として位置づけていることから、入社を決意しました。Faciloでの1年間を振り返ると、社員数30人から60人のフェーズは、どこか「会社のようで会社じゃない」フェーズであり、全員が顧客に向き合う中でトップスピードで動いている感覚を楽しんでいます。経験豊かな人材が集まり、日々プロダクトも組織もどんどん成長していくだけに、「日々がすごく愛おしい」と感じます。数ヶ月経つと組織の状態も大きく変わっていく中で、その変化を前向きに楽しみつつも、変わりゆく瞬間を何かに残しておきたいという思いからポッドキャストも始めました。FaciloのnoteFaciloのPodcast —非常に多くの変化に直面してきているキャリアだと感じます。変化の激しい環境で働くことの面白さと難しさについて、どのようにお考えですか?趙:安定的に同じ状態が続くというよりは、変化していくことに喜びを感じるタイプだと思います。しかし、いくら変化が好きだと言っても、葛藤はつきものです。環境が変化するということは、過去の自分を否定しなければいけない瞬間や、自信が持てない時に「負けを認める」ことが必要な局面があることを学び、それらが自身の成長に繋がっています。これまでの経験から得た「最悪な状態は長く続かない」「諦めずにやり続ければ良い方向に行く」という根拠のない自信が、お守りのようになっていますね。スキルではなく、ファンダメンタルな部分での自信です。3年前の自分だったら潰れていたかもしれないと思うこともありますが、様々な経験を経て、自分自身も成長していると感じています。“人の感じ方”をデザインする――自身のキャリアテーマ—では最後に、今後の展望をお聞かせください!趙:これからのキャリアで大事にしたいのは、「循環型社会」や「DEI」といったテーマを、個人としてもHRとしても深く探求していくことです。その背景には、「人の感じ方=知覚(パーセプション)をどうデザインするか」という、もっと根本的な興味があります。この関心は、実は学生時代に音楽を学んでいた経験に遡ります。演奏って、どれだけ上手く弾けたかだけでなく、「聴く人がどう感じるか」で全然違って聞こえるんですよね。何時間も練習を重ねて完璧に弾いたつもりでも、聴く側の集中度や心の状態によって、受け取られ方が変わってしまう。つまり、「伝える側」だけでなく、「受け取る側」の感覚がどんな状態にあるかがすごく大事なんです。例えば、100円のパンと1,000円のパンがあったとしても、仕事をしながら食べたら味の違いをあまり感じないこともある。この「感じ方の違い」に昔から興味があり、それが今の仕事にもつながっています。少し専門的な話をすると、これは「知覚構成主義」という考え方に近いです。人は相手との関係性の中で「違い」をどう感じ取り、それをどう調整するか。その相互プロセスこそが、組織の中のコミュニケーションや信頼関係づくりの核心だと考えています。私が、DMIS理論やDPICを学び続けているのも、それらの理論が知覚構成主義に基づいているからです。AIがどんどん発展していくこれからの時代だからこそ、人間同士がどう「感じ合い」「理解し合うか」という部分が、幸せや豊かさを決める要素になっていくと思っています。だから私は、「人がお互いの違いをどう生かしていくか」を、ライフテーマとして探求していきたい。HRの仕事としても、この考えをベースに、組織の中での新しい関わり方や、違いや多様性を力に変える仕組みをつくっていきたいと考えています。—素晴らしいですね!この度はお時間をいただきありがとうございました!※この記事内容は全てインタビュー当時のものです。最後にFacilo社では人材の募集を積極的に行っていますので、ご興味ある方は問い合わせフォーム等からご連絡ください。Faclilo社の採用情報はこちら!