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スタートアップ・ベンチャーの常勤監査役に求められる役割とは?キャリア・必要な経験・経営との関係性
2025.07.28
スタートアップがIPOや大規模な事業展開など、次の成長ステージへ進むうえで、ガバナンス体制の構築は欠かせません。その中核を担うポジションの一つが「常勤監査役」です。
常勤監査役というと、「経営をチェックする人」「ブレーキをかける人」というイメージを持たれることもありますが、実際の役割はそれだけではありません。経営の健全性と透明性を担保しながら、企業が持続的に成長できる状態をつくることが重要な役割です。
特にスタートアップでは、制度やガバナンスがまだ発展途上であることも多く、完成された仕組みを監査するだけでなく、経営陣やバックオフィス(管理部門)と連携しながら、これからの会社に必要なガバナンスをつくっていく役割も求められます。
なお、実際に求められる経験や専門性は企業のフェーズや組織体制によって異なり、すべてを一人で備えている必要があるわけではありません。
- 1. 常勤監査役に求められるのは「監査経験」だけではない
- 2. 会計・財務に加え、法務・コンプライアンスへの理解も重要
- 3. 経営陣との信頼関係と「独立性」を両立する
- 4. 事業を理解しているからこそ、実効性のある監査ができる
- 5. スタートアップでは「ガバナンスをつくる」経験も求められる
- 6. IPO準備において常勤監査役が担う役割
- 7. バックオフィス(管理部門)との連携力も重要
- 8. 「ブレーキ役」ではなく、適切なリスクテイクを支える存在
- 9. 「執行する立場」と「監査する立場」は大きく異なる
- 10. 常勤監査役の採用では「経営トップとの相性」も重要
- 11. 常勤監査役のキャリアパスは一つではない
- 常勤監査役は「キャリアの上がり」なのか?
- まとめ
1. 常勤監査役に求められるのは「監査経験」だけではない
常勤監査役の採用では、監査法人での監査経験や上場企業での監査役経験、公認会計士などの専門資格が評価されることがあります。特に財務・会計領域の知見は、決算や財務報告、内部統制などについて適切に監査を行ううえで重要です。
一方で、スタートアップの常勤監査役に求められるのは、監査の専門知識だけではありません。会社によっては、経理・財務、法務、内部監査、リスク管理、コンプライアンス、IPO準備、M&Aなど、幅広い経験が評価されることもあります。
重要なのは、資格や肩書そのものではなく、「その企業がこれから直面するガバナンス上の課題に対して、自分の経験をどう活かせるか」という点です。
2. 会計・財務に加え、法務・コンプライアンスへの理解も重要
常勤監査役は、財務報告の適正性だけを確認する役割ではありません。取締役の職務執行や重要な意思決定、内部統制、コンプライアンスなど、会社全体を俯瞰して監査する必要があります。
そのため、会計・財務だけでなく、会社法をはじめとする法務やガバナンス、コンプライアンスへの理解も重要です。特に成長過程にあるスタートアップでは、新規事業、資金調達、M&A、組織拡大などによって、それまで想定していなかったリスクが発生することがあります。
常勤監査役には、形式的にルール違反を指摘するだけではなく、「この意思決定によって、将来的にどのようなリスクが生まれる可能性があるか」を先回りして考える視点が求められます。
3. 経営陣との信頼関係と「独立性」を両立する
常勤監査役の仕事で特に難しいのが、経営陣との距離感です。スタートアップでは組織規模が小さく、経営陣と日常的にコミュニケーションを取ることも多いため、一定の信頼関係を築くことは非常に重要です。
経営陣から相談を受けたり、重要な意思決定について意見を求められたりすることもあります。その際、単に「それはできません」と指摘するのではなく、なぜリスクがあるのか、どのような方法であれば適切に進められるのかを建設的に伝える力が求められます。
一方で、経営陣と良好な関係を築くことと、経営陣に迎合することはまったく異なります。監査役には、取締役から独立した立場で監査を行い、必要であれば経営陣に対して厳しい意見を伝えることも求められます。
つまり、「経営に近いが、経営からは独立している」という立場を保つことが重要です。
経営陣から信頼されながらも、言うべきことは適切に伝えられる。このバランス感覚は、常勤監査役として非常に重要な能力の一つです。
4. 事業を理解しているからこそ、実効性のある監査ができる
常勤監査役として価値を発揮するためには、その会社の事業を深く理解することも重要です。
業界構造、ビジネスモデル、顧客、競争環境、収益構造、法規制などを理解していなければ、表面的なリスクは確認できても、本当に重要なリスクを見極めることは難しくなります。
例えば、AI系スタートアップと金融系スタートアップでは、注視すべき事業リスクや規制は大きく異なります。AI系であれば、データ利用、著作権、情報管理、AIガバナンスなどが重要な論点になり得ます。一方、金融・医療・人材などでは、それぞれの業法や規制への理解が不可欠です。
だからこそ、「監査の専門家」であると同時に、「その会社の事業を理解する人」であることが重要です。
事業を理解したうえでの指摘であれば、経営陣や事業部門にとっても納得感が高まり、監査が単なるチェック機能ではなく、企業の健全な成長につながるものになります。
5. スタートアップでは「ガバナンスをつくる」経験も求められる
大企業や上場企業では、すでに一定の監査体制や内部統制が整っているケースが多くあります。一方、IPO準備段階のスタートアップでは、監査役監査の年間計画、取締役会・監査役会の体制、内部監査・会計監査人との連携、内部通報制度、各種規程、リスク管理体制などを、これから整備していくケースもあります。
そのため常勤監査役には、既存の仕組みを使って監査するだけではなく、「この会社にはどのような監査・ガバナンス体制が必要なのか」を考え、経営陣やバックオフィス(管理部門)と一緒につくる力が求められることがあります。
こうした「ゼロからガバナンスを構築する経験」は、スタートアップの常勤監査役ならではのキャリアの一つです。
6. IPO準備において常勤監査役が担う役割
IPO準備企業では、常勤監査役の採用が重要なテーマになることがあります。
IPOを目指す過程では、監査法人や主幹事証券会社、取引所などから、会社のガバナンス体制や内部管理体制が確認されます。常勤監査役は、監査計画を策定し、取締役会などの重要会議へ出席するとともに、経営陣や各部門へのヒアリング、監査法人・内部監査との連携などを通じて、会社の健全性を確認していきます。
また、IPO準備ではそれまで曖昧だった権限や業務フロー、規程などを整備する必要があり、監査役の視点から改善点を提示することもあります。
ただし、IPOを実現することだけが常勤監査役の目的ではありません。上場後も継続的に機能するガバナンスをつくることが本質的には重要です。
その意味では、「IPOを経験したか」だけではなく、上場後も機能する仕組みをどこまで構築できたのかという視点も、常勤監査役のキャリアを考えるうえでは重要になります。
7. バックオフィス(管理部門)との連携力も重要
スタートアップの常勤監査役は、経営陣だけでなく、経理・財務、人事、法務、総務、経営企画、内部監査など、バックオフィス(管理部門)の各機能と日常的に連携します。
例えば、経理とは決算や財務報告、内部統制について連携し、法務とは取締役会や株主総会、コンプライアンスについて確認する。人事とは労務リスクや組織課題について意見交換し、内部監査とは監査計画や発見事項を共有する、といった関わりがあります。
そのため、常勤監査役自身がすべての領域の専門家である必要はありませんが、各専門家の意見を理解し、会社全体のリスクを俯瞰しながら連携できる力が重要です。
また、バックオフィス(管理部門)の現場から相談を受けることもあります。その際に「監査する側」と「監査される側」という対立構造をつくるのではなく、会社をより良くするという共通目的のもとで関係を築けることも重要です。
8. 「ブレーキ役」ではなく、適切なリスクテイクを支える存在
スタートアップでは、スピードとリスク管理が衝突する場面があります。新しい事業を始めたい。大型の投資をしたい。M&Aを進めたい。採用を一気に増やしたい。経営としては、一定のリスクを取らなければ事業を成長させることはできません。
そのため、監査役の役割は「リスクがあるからやめるべき」と判断することだけではありません。
むしろ、「どこにリスクがあり、何を整備すれば、そのリスクを適切にコントロールしながら挑戦できるのか」を考えることが重要です。
この考え方は、S hireのSpotlightでご紹介したユーザベースの取締役 監査等委員・武田彩香氏のキャリアからも見ることができます。
武田氏は法律事務所からユーザベースへ転職した後、事業法務に加えてM&A、チームマネジメントなどへ役割を広げ、事業CLO・全社リスク管理担当役員を経験しました。法務役員としては、リスクを管理する「守り」だけではなく、M&Aや新規事業の複雑なスキーム構築など、法務が関与することで事業を前へ進める「攻め」の役割にも取り組んでいます。
その後、カーライル・グループへの参画と再上場を見据えたガバナンス強化のフェーズで、監査等委員取締役へと役割を変えています。
このキャリアからも、監査役として重要なのは単に「危険を見つけて止めること」ではなく、事業を理解し、どこまでのリスクであれば適切に取れるのかを考えられることだと分かります。
経営が取るべきリスクと、取ってはいけないリスクを見極める。その意味で、優れた常勤監査役は単なるブレーキではなく、企業が安心してアクセルを踏むための存在ともいえます。

9. 「執行する立場」と「監査する立場」は大きく異なる
常勤監査役へのキャリアを考える際に、理解しておきたいのが「執行側」と「非執行側」の違いです。
事業責任者やCFO、法務責任者、管理部長などの執行側では、自ら意思決定し、チームを動かし、施策を実行することで成果を生み出します。
一方で、監査役は原則として執行そのものを担う立場ではありません。
会社に課題が見えていても、自分自身でプロジェクトを立ち上げ、解決まで実行するのではなく、経営陣への意見や監査活動などを通じて会社をより良い方向へ導く必要があります。
この違いは、特に長く執行側で成果を出してきた方にとって、大きな変化になることがあります。
ユーザベースの武田氏も、執行役員から監査等委員へ役割を変えたことで、「自分で決められない、進められない」という監査役ならではの難しさに直面したと語っています。一方で、再上場後の株主やステークホルダーを見据え、あるべきガバナンス体制を構築することに新たな役割を見出しています。
つまり常勤監査役には、「自分が成果を出す」ことから、「組織が健全に成果を出せる状態をつくる」ことへの役割転換も求められます。
この変化を面白いと感じられるかどうかも、常勤監査役というキャリアとの相性を考える重要なポイントです。
10. 常勤監査役の採用では「経営トップとの相性」も重要
専門性や実務経験と同じくらい、採用において重要になるのが経営トップとの相性です。
常勤監査役は、CEOをはじめとする経営陣と長期間にわたって近い距離で仕事をします。だからこそ、「この経営者であれば率直に意見を伝えられるか」「厳しい指摘をしたときにも建設的な議論ができるか」「経営者が監査役の役割を正しく理解しているか」といった点は非常に重要です。
同時に、経営側から見ても、「この人になら会社の重要な情報を共有できる」「必要なときには率直な意見を言ってくれる」と信頼できることが重要です。
そのため、S hireのご支援においても、資格や経歴だけでなく、経営トップとのコミュニケーションや価値観の相性が最終的な意思決定に大きく影響するケースがあります。
ただし、ここでも「仲が良い」という意味での相性ではありません。
経営陣と信頼関係を築きながらも、必要な場面では異なる意見を率直に伝えられる関係を築けるか。
常勤監査役にとっては、この関係性こそが重要です。
11. 常勤監査役のキャリアパスは一つではない
常勤監査役になるためのキャリアパスは一つではありません。
監査法人で会計監査を経験した公認会計士、上場企業で経理・財務や内部監査を経験した人、法務・コンプライアンス領域の責任者、管理部長やCFOとしてIPO準備を経験した人、他社で監査役経験を持つ人など、さまざまなバックグラウンドから常勤監査役へキャリアを広げることがあります。
ユーザベースの武田氏もその一例です。
法律事務所で企業法務を経験した後、事業会社へ入り、事業法務、M&A、マネジメント、事業CLO、全社リスク管理担当役員と、会社の成長に合わせて役割を広げた後、監査等委員取締役へとキャリアを展開しています。
このキャリアから分かるのは、常勤監査役に求められる価値が、必ずしも「監査経験の長さ」だけで決まるわけではないということです。
法務、会計、リスク管理、M&A、経営、組織マネジメントなど、異なる経験を積み重ねることで、会社をより多角的に理解し、監査役としての価値につなげることもできます。
重要なのは、過去の肩書よりも、「企業経営をどの角度から理解し、どのようなリスクやガバナンス課題に向き合ってきたか」です。
また、企業によって求められる人物像も異なります。IPO準備を主な目的として公認会計士を求める企業もあれば、事業理解や経営経験を重視する企業、上場後のガバナンス経験を求める企業もあります。
そのため、「常勤監査役になるにはこのキャリアが正解」と考えるのではなく、自身の専門性や経験が、どのような企業フェーズで最も価値を発揮するのかを考えることが重要です。
常勤監査役は「キャリアの上がり」なのか?
常勤監査役というポジションについて、「シニアになってから就くポジション」「キャリアの最後に選ぶ仕事」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
ユーザベースの武田氏も、30代・40代前半で執行側から監査等委員へ移ることについて周囲から「もったいないのではないか」という声を受けながら、カーライル傘下で再上場を目指す企業のガバナンスに携われることを、新しいキャリア経験として選択しています。
常勤監査役として、
IPO準備
上場後のガバナンス
M&A
PEファンド傘下での経営
再上場
組織再編
などの大きな経営イベントを経験することは、その後のキャリアにも活かすことができます。
また、執行と非執行の両方を経験することで、経営をより多面的に理解できるようになることもあります。だからこそ、
「常勤監査役になること」そのものではなく、「その企業で監査役としてどのような経営経験を得られるのか」
という視点でキャリアを考えることが大切です。
まとめ
スタートアップにおける常勤監査役は、単に経営をチェックする存在ではありません。経営の健全性を担保し、企業価値の毀損を防ぎながら、会社が安心して成長に挑戦できるガバナンスをつくる役割です。
そのためには、会計・監査・法務・コンプライアンスなどの専門知識に加えて、事業への理解、経営陣とのコミュニケーション力、独立した視点、バックオフィス(管理部門)との連携力などが求められます。
また、常勤監査役のキャリアパスは一つではありません。会計・監査だけではなく、法務、リスク管理、CFO・管理部長、経営などで培った経験を、監査役として活かすこともできます。
そして何より重要なのは、経営陣と信頼関係を築きながらも、必要なときには独立した立場から率直な意見を伝えられることです。
「経営を止める人」ではなく、適切なガバナンスによって企業が安心して挑戦できる状態をつくる。その意味で、常勤監査役もまた、企業成長を支える重要な経営人材の一人です。
常勤監査役の採用では、「資格を持っているか」「監査経験があるか」だけではなく、企業のフェーズや経営課題に対して、その方がどのような価値を提供できるかが重要になります。
S hireでは、IPO準備企業から上場企業まで、企業のフェーズやガバナンス上の課題、経営陣が期待する役割まで整理しながら、常勤監査役としての経験や専門性を最も活かせるキャリアの選択肢をご提案しています。
※弊社でも同ポジションの支援実績は豊富にあり、以下が一部抜粋です。

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